御旨と海 第86話

魚釣りに対する先生の心情

 では、本論に戻りましょう。時々、皆さんが話をする時には、テーブルをセットする前に部屋を掃除しなければなりません。そうでしょう。それが指導者という者です。今や皆さんは「どんな嵐が来ても自分は出かけるぞ」というような決意ができたと先生は確信します。皆さんはそういった決意を持っていますか。よろしい。それが違うところです。さあ、皆さんは決意を持っています。だから先生も皆さんに話すことを幸福に思います。

 皆さんはこれらの新しくて清潔な船の責任を与えられました。マグロ釣りを七十日間した後に、これらの船を今と同じように清潔な船として返さなければなりません。これはこうすることによって、ただ単に皆さんの船を愛するのみならず、皆さんの国を愛したことになるのです。一度海に出かければ、皆さんの船と皆さんの体とどちらがより大切ですか。いやいや皆さんの体の方がより大切でしょう。よろしい。皆さんは船の方がもっと大切だと主張するのですね。今度だけは皆さんに同意します。なぜならば、海に出かけた時には船の方が大切だからです。海の上では、船こそが皆さんが生き残れるかどうかの鍵を握っているからです。

 だから皆さんは、自分の体を愛する以上に、皆さんの船を愛さなければなりません。皆さんがどんなに有名であろうとも、どんなに多くの人々が船に乗っていようとも、海にいる時は船の方がもっと価値があるのです。船なくして皆さんは生きることができません。自分の手に油が着いている時には手を洗うくせに、船が汚れている時に船をきれいにしない人のことを考えてみなさい。こういう人は、今日先生が話している精神の持ち主ではありません。

 もし皆さんが海に出てそのような態度でいるならば、船が皆さんを嫌うでしょう。そして、海も皆さんを嫌うでしょう。しかし、もし皆さんが心をつくしてその船を愛するならば、海ですらも皆さんを抱きかかえるでしょう。船が皆さんに愛を返し、海が皆さんを抱きかかえる時にのみ、皆さんは幸せを感じることができるのです。もし皆さんが船に対して「あなたは私と共にいることを誇りに思いますか」と尋ねてみて、皆さんの船が「はい、その通りです」と答えるとしたら、何とすばらしいことでしょうか。もし皆さんが皆さんの船からそのような気持ちを感じることができるならば、また海からもそのように感じるならば、何とすばらしいことでしょうか。

 さらにまた、皆さんは船の備品を愛し、良く手入れしなければなりません。エンジンと船は皆さんの生命を守るものです。また皆さんのラインや針を皆さんの着物以上に愛さなければなりません。皆さんが誰かを、あるいは神様を愛する時には、それらを決して傷つけたりはしないでしょう。それと同じことです。もし皆さんが船を愛し、また船の上のものをすべて愛するならば、それらも皆さんを傷つけることはないでしょう。むしろ皆さんを守ってくれるでしょう。

 皆さんはこうした態度を身につけなければなりません。もし皆さんがそうした態度を身につけているならば、事故も起こらないでしょう。船の上で最も重要なものはエンジンです。エンジンなくして動くことはできません。だから、エンジンは船の心臓のようなものです。船がどんなに良いものであろうとも、もしエンジンが正常に働かなくなれば、皆さんは身動きができなくなります。また皆さんは、いかに正しく船の舵をとるか学ばなければなりません。突然動くようなことをしてはいけません。それは危険です。また船の上ではふざけてはいけません。先生は魚釣りを始めた最初の九年間は、決して船のデッキの底へ行って眠ったりはしませんでした。九年たってから、とても頭の痛い日があり、一日だけ休まなければならなかったことがありました。船の所有者、主人というものはそのような高い精神を保ち、船を良く面倒を見なければなりません。そうした精神を我々も持たなければならないのです。

 先生はこれまで、多くのメンバーが一日中ただ眠っているだけの姿を見て来ました。彼らは船の上で横になって、先生に対して背中を見せるのです。これはちょっとした眺めです。皆さんは、先生が今何歳だか知っていますか。もうほとんど六十七歳になります。この年になれば、人々の中には杖に頼らなければならない人もいます。しかし先生はこの年で真っすぐに立って、そして皆さんのような若いアメリカ人を押し出さなければなりません。今、先生が皆さんを見て、皆さんの精神を見ています。今晩、皆さんは全世界を支配したいと思っている将軍のような精神を持っています。その精神を、皆さんがどれだけ長く保ち続けることができるか疑っています。永遠ですか。それは以前に聞いたことがあります。少なくともこのマグロ釣りの間ですか。誰がそう言いましたか。それは良い答えです。それが第一歩です。

 主な点を覚えておいてください。船を愛しなさい。グロースターには、何年も何年も真剣にマグロ釣りをして来た人がいます。彼らは先生の方法を研究して、その真似をしようとしています。先生は自分なりの方法を編み出したのです。その一つの点は、決して釣りのラインを切ってはいけないということです。釣りのラインは何度でもつなぐことができます。一本のマグロ釣りのラインは千五百ドルもします。皆さん、何をしようとも、ラインを切って失うようなことをしてはいけません。先生は五年以上もの間、ラインを切ったり失ったりしないで、一本のラインを使って来ました。もし皆さんがラインを失えば、たとえマグロを一本とったとしても、既にその値段の四分の一は無くなってしまっています。

 先生の方式は非常に整理されており、また経済的です。だからそれは他のいかなる方式よりも優れています。皆さまが今通過しているこの修練は、どこか他から採用して来たものではありません。いわば、先生の伝統から出て来たものです。修練の原型は先生の心情から出ているのです。皆さんは先生がこの方式をもたらすまで、いかなる困難や苦悩を通過しなければならなかったか、理解しなければなりません。この方式と訓練をもってすれば、皆さんが海に出かけた最初の日からマグロを釣って、それを持って帰ることができます。三年間もの間、マグロをとろうと試みて、ようやく一本しか釣ることができなかった、そういう漁師もいます。それほどマグロを釣ることは難しいものです。しかし、もし皆さんが今学んだ方法を用いるならば、出かけるとすぐにマグロをとることができます。

 ニューホープ号は、一シーズン三十五匹のマグロを釣った記録を持っています。先生はそれぞれの船に指示を与えたつもりです。皆さんは、それぞれが、今シーズン少なくとも五匹釣らなければなりません。皆さんは「なぜ自分は五匹も捕まえなければいけないんだ。自分はそんなことはしたくない」と考えるかもしれません。皆さんは大きくて強いアメリカ人です。それで皆さんは、自分の心の中で「お父様、あなたは今ニュー・ホープ号は三十五匹も釣ったと言われましたが、私はただ五匹だけ釣ればいいのですか」と思っているでしょう。皆さんはもっと釣りたいと思っているかもしれませんが、しかし五匹釣るという目標に到達するためには、非常に多くの祈りと働きを必要とします。皆さんは船の上で、多くの障害や訓練を乗り越えなければならないかもしれません。皆さんは失望落胆して、船の上で泣きたいと思うことがあるかもしれません。そして長い間一本のマグロも釣ることができなく、涙でもって陸へ戻って来て「神様は私を愛していないのだ」と思うような、そういう時もあるかもしれません。それ位の努力と心と願いが必要なのです。皆さんが疲れていて、もう止めようというその時に、マグロが餌に食い付かずに、皆さんの船の傍らを通って行くのを見ることもあるでしょう。そういう時に皆さんは、目を覚まして力いっぱい「おい、ここへ戻って来てこのラインをくわえろ」と叫ばなければなりません。皆さん、そういった精神を持っていなければならないのです。

 皆さんは夢の中でも、すなわちこの悪夢の中でも、同じような努力をしなければなりません。もし皆さんが、例えば山に行って虎を捕まえようとしているとします。その仕事は、何と危険で困難な仕事でしょうか。マグロを釣るのもそれと同じようなものです。千ポンドのマグロを一本捕れば、約七千㌦もしくは一万㌦位の価値があります。そのことについて話しているのです。皆さん、それだけの価値を持った牛を捕まえることができますか。とても比較にはなりません。

 我々はそういった種類の宝を追っているのです。現実はそのようなものですから、皆さんがマグロを一本釣れば、皆さんと皆さんの家族、たとえ三家族ですらも、一年間食べて行くことができます。だから一本のマグロは何と貴重なことでしょうか。もし皆さんがただ海に出て船べりに座って、行ったり来たりしながら「マグロよ、船の所へ来てくれ」と言っているだけでは、皆さんは他の漁師から魚を奪う泥棒か強盗に過ぎません。皆さんは真剣にならなければなりません。

 先生は霊感を持っています。時々、先生は今から五分以内にマグロがやって来て、食い付くということを感じます。そして多くの場合、まさにその瞬間に本当にマグロが食い付くのです。極めて疲れている時にマグロが食い付いて、その瞬間に、新鮮なきゅうりのように気分が一新される経験をしました。その感動を考えてみなさい。時々、戦いは長く続きます。時には一時間以上続くことがあります。しかし先生は激しく働き、汗を流しているので、その期間が一、二分のように思えるのです。一度、マグロが来るという予感がして、一日中今か今かと待っていたことがありました。そしてマグロが来ることがわかっていたので、他の何も考えることができませんでした。熱心に待っていたので、トイレに行くことすら考え付きませんでした。そしてトイレに行こうかなと思った瞬間に、マグロが食い付いたのです。その瞬間、非常に興奮して、トイレに行くことを忘れてしまいました。戦うことだけしか考えませんでした。そしてその戦いが終わった後に、先生は自分がぬれているのに気が付きました。しかし我々はそのマグロを捕ることができたので、先生はそのことが全く気になりませんでした。こういう経験は、今初めて皆さんに証するのです。だから皆さん、先生が感じたような興奮を想像することができますか。皆さんもまた自分なりに、このような意義深い思い出を持つべきです。ただマグロが来るのを待っているのではいけません。皆さんは、マグロが皆さんの方へ来るように呼ばなければなりません。熱心な、真剣な心を持たなければなりません。

 それゆえに、船の上での第一のルールは、喧嘩をしたり、怒鳴ったりしてはいけないということです。もし船の上で指示を与えなければならない時は、しっかりと、しかし静かに与えなさい。多くの人達はチャムを切る作業を好みません。皆さんの中でこの経験のある人は知っているはずです。においは悪いし、見た目も非常に悪いので、とても言い表せない位です。だから皆さんはこの仕事は他の者にやらせたいと思うでしょう。しかし、皆さんはそのチャムを切る時、先生の心情を思わなければなりません。そして他の人に対しては「あなたは休んでいなさい、自分がこの仕事をするから」と言いなさい。また皆さんが船を出す時には、ただ単にエンジンをかけて出発するのではいけません。船の中を見回して、すべてがきちんとなっているかを確かめなさい。また帰って来た時には、ただ荷物をまとめて船を去るのではいけません。一日を本当に感謝しなさい。

Atsuki Imamura