御旨と海 第60話

マグロ釣りは訓練である。

 ある人達にとっては一本のマグロは一カ月分の給料よりも多いのです。皆さんはこのことをもっと真剣に考えなければなりません。もし皆さんが五千ドルの現金をポケットの中に持っていたとしても、それを海の中に落としたならば、皆さんはどんなに悲しむでしょうか。そのことを考えるべきです。マグロの場合には、皆さんはお金だけでなく、マグロの命すら失うかもしれないのだからさらにもっと深刻です。我々は他の誰よりも真剣なんですが、そういう真剣さは本当に重要です。もし我々が真剣さや尊敬の念を失えば、マグロに逃げられてしまいます。マグロ釣りは、魚釣りの技術の中でも最高の技術を必要とします。もちろん皆さんは、漁についての知識をほとんど持たずに始めたのですから、こういうことを全く知らなかったかもしれません。しかし先生がそれらを説明した現在、皆さんもそれについて考えてみなければなりません。これらの技術は皆さんがどこへ行こうとも、漁をしていようと水産業に携わっていようと、その他の仕事についていようとも、いつも皆さんと共にあります。それは皆さんが心の姿勢について学んでいるからなのです。

 将来皆さんが何をしようとも、どういう問題を抱えることになろうとも、皆さんはここで学んだ教訓と関連づけるので必ずそれを解決することができます。また他のどんな漁についても、皆さんはこれを適用することができます。分かりますか。少々抽象的すぎるかもしれませんが、水産業の中で他のどういう分野にも適用することのできる思考方法を皆さんは学んでいるということです。実際、どういう種類の活動にもそれを適用できます。

 皆さんも既に経験したかもしれないけれど、こういう漁のやり方には速やかな決断が要求されます。数分間の猶予も与えられません。時にはその瞬間に決断しなければならないこともあります。一人の人間の命が皆さんの決断にかかっているかもしれません。間違った動きをすれば、何かとても危険なことが起こるかもしれません。我々はいつも真剣に考えなければなりません。浮わついた考えをしてはなりません。これは将来起こるかもしれない命の危険について言っているのです。いついかなる時も、何か緊急事態の起こる可能性があります。皆さんは自分の命について、こういう考え方をしておかなければなりません。実際、一瞬一瞬が真剣です。

 さらに、皆さんは一体化についても素晴らしい教訓を学びました。船の上にいるすべての人々が一体化し、船全体が調和を持って働いていれば、誰もけがをしないし、フックからマグロが逃げることもありません。マグロが食い付き、そして引っ張ります。そして皆さんも引っ張ります。その時皆さんは十のこと、あるいはそれ以上のことを考えています。皆さんは引っ張っている時「次はこうだ、その次はこうだ」と先のことに素早く思いを巡らせなければなりません。

 皆さんの心の中ではすべてのことが同時に起きています。次に何をすべきかをはっきりと皆さんは知っていなければなりません。例えば、ジンソン(珍成)のフックにマグロが掛かりました。彼らは引っ張り始めましたが、彼の頭の中にあるのはそれだけでした。マグロが海面に姿を現したけれども、誰も他にどうやったら良いのか知っている者はいませんでした。彼らはただその周りに立っているだけで、ラインが至る所に垂れ下がっていました。皆さんは自分がそういう立場にいたらどうすべきかを決定しなければなりません。

 すべてのことに絶えず思いを巡らし、今やっていることに意識を集中しなければなりません。皆さんが何をやるにしても、なぜそうするのか、いつも知っている必要があるし、次に何をすべきかについても絶えず考えていなければなりません。そして、これらのことが全部同時になされなければなりません。先生はこれらの技術について長い間とても真剣に考えたのですから、皆さんにもそれを習得してもらいたいと思っています。重要なことです。一瞬たりともおろそかにしてはなりません。そうしないと、皆さんは機会を逃がすことになるかもしれません。それを皆さんに知ってもらいたいのです。

若者と将来に投資する

 なぜ我々はマグロ釣りをしているのですか。他にもヒラメやサケなど、漁に適したいろいろな種類の魚がいます。いつの日か皆さんはそういった魚を全部捕るつもりでいるのですが、先生はまず若者達の創造力をいかに捕えることができるかを考えています。若者が少なくとも三本のマグロを捕ったら、残りの人生はそれに釘付けになるでしょう。夏がやってくるごとに、その人は漁に行きたいと思うようになります。彼らは「陸の上はとても暑くて蒸し蒸しするけれども、海の上はとても静かで美しく、時には冒険的だ」と考えています。その若者はどうしてもそれに引き付けられてしまいます。

 ムーニー達は基本的にはこの世の人達と同じなのです。少しはましかもしれないけれども、基本的には同じです。いずれにせよ、我々の人生には時々刺激が必要です。そう思いませんか。我々はマグロ釣りをすることによって、今までずっとお金を失っていますが、先生は決してそれを心配していません。先生は決してラインを離さないし、この自分の信念も絶対に放棄したりはしません。マグロはこの伝統を確立する上で最も優れた種類の魚だということを先生は知っています。一人の人間を、急激に一夜のうちに、また一年間で変えてしまうようなものは何もありません。ここの平均的なアメリカ人の若者が、それを心に留め応用することができるようになるには、少なくとも十年かかるということを先生は知っています。特に海に関してはそうです。海を愛するには一年、二年、あるいは三年かかります。長い年月が経った後、皆さんは「そうだ、これが私の未来だ」と言えるようになります。

 いったんマグロ釣りの方法が分かるようになったら、何ものもその興奮を抑えることはできません。このことを知っている人がマグロ釣りについて話し始めたら、彼は穏やかに話すことができず興奮してきます。そしてマグロがラインに掛かってきた瞬間を再現し、格闘のあらましを詳細に説明しないわけにはいかなくなります。皆さんは笑っているけれども、それは皆さんがそういうことについて既に知っているからなんです。これはマグロを釣ったことのない人々にも良い影響を与えます。マグロがアンカー・ラインの所にきてラインを切った瞬間、その時ちょうど皆さんがそのラインを力いっぱい引っ張っていた時だったというようなことが時々起こります。その時皆さんは船の上にひっくり返って、体をしこたま打ちます。こういうことは、本当に人生を満ち足りたものにする経験です。我々はたくさんのお金を失っても、それを心配したりはしません。

 我々は一年とか二年だけ漁をするのではありません。我々は未来を、これが広がり始め、さらに多くの人々が参与するようになる十年後よりさらに未来を見つめています。それからアメリカの若者達の目が海の方に向き始めるようになります。先生はそのように確信しています。それを確実なものにするために、我々は少なくとも十年間費やして基盤を築かなければなりません。我々がそうすれば、人々は我々の運動にきやすくなるし、我々の経験から利益を得ることもできます。我々も自分自身の運動の中でいろいろ学ばなければなりません。先生はまず自分で漁を始め六、七年それを続けた後、オーシャン・チャーチを始めました。最初オーシャン・チャーチの指導者達はほとんど何も理解できませんでしたが、今では彼らのうち何人かは理解できるようになりました。彼らはある程度成熟してきたのです。そう思いませんか。だから今こそ、我々がより多くのお金と努力の投入を開始することのできる時なのです。

 先生はいつも皆さんより先を歩いています。将来何をすべきかについて皆さんが何も考えていない時、先生は海に出てマグロの釣り方を学んでいました。今皆さんはマグロ釣りをやっており、先生は既にアラスカにいます。アラスカは特別な場所です。そこには夜がありません。だから皆さんは文字通り夜を徹して働くことができます。その間ずっと釣りをしています。アラスカではオヒョウが釣れます。その重さは百五十ポンドぐらいですが、オヒョウは平べったいのでマグロほどの大きさがあります。マグロはフックに掛かったら、ただ真っすぐに引っ張るだけですが、オヒョウは突然ぐいと引きます。皆さんが本当に釣りが好きならば、一度アラスカに来ただけで、皆さんは「プロビンス・タウンは忘れてしまえ、グロースターは忘れてしまえ」と言うようになるでしょう。

 そこにはいろいろなものがあります。例えば、タラの群れは海をさまざまな色で彩ります。彼らはまるで一匹の大きな魚のようになって移動します。十分大きな網があったとしたら、何百ポンドという魚が捕れることでしょう。皆さんはそれを捕る方法を見いだし、そして全世界に配らなければなりません。そこから皆さんはアメリカの水産業のための新しい伝統を築くことができます。なぜ我々がマグロ釣りをするのか、その理由を皆さんは少しは理解できるようになりましたか。マグロは最初に捕る魚として最適なのです。マグロ釣りの技術を徹底的に学習しさえすれば、他のどういう種類の魚に対しても確信を持って当たることができます。確信を持って釣りをすれば、皆さんは水産業全体を復活させることができるし、またそうすることによって、アメリカを復活させることになります。それが先生の皆さんへの希望なのです。

Atsuki Imamura