御旨と海 第70話
ニュー・ホープ号は速度の遅い船です。ですから八時間も漁をして、帰って来るということはできません。出かけるのにも帰って来るのにも時間がかかるからです。実際、朝早く出かけて行って夜遅く帰って来るのでなければ、まる八時間魚を釣ることはできません。そしてニュー・ホープ号ではいつもそのようにしています。ワン・ホープ号はもっと速度が速いのです。その意味において、あらゆる種類の魚釣りをするには、ニュー・ホープ号よりワン・ホープ号の方がずっと向いているのです。皆さんはこれが本当であることを示さなければなりません。先生は皆さんを信頼し、それができることを知っています。
研究し、自分で見つけた原理原則を応用しなければなりません。できるだけ多くを試み、できるだけ多くを研究する者が勝利者なのです。満潮や、干潮や中間の潮を研究しなさい。この三つの時にどのような結果が得られるかを試み、見つけだしなさい。また海の深さや地形に応じて出かけて行って、魚を捕りなさい。「ああ、ここが魚のいる所だ」という具合に思いなさい。それから出かけて行って魚を何も捕まえられないことがありますが、そういう時にはただ走り去ってしまうのではなく、そこでとにかく一日漁をして、潮の干満によってどういうことが起るかを見なさい。このように魚釣りに出る時にはあらゆる要因を考えなければなりません。
ストライプバスは捕るのが極めて難しい魚です。先生は昨年、その魚が真夜中に三時間激しく興奮していたのを見ました。その時は何かの先約とか、いかなる予定があったとしても行くことはできません。その魚を釣る以外のことはすべて忘れなさい。ストライプバスが餌を食べている時、噛みついている時だけが絶好のチャンスだからです。しかし計画がまずければ、餌がなくなってしまうかも知れません。そういう時はどうしますか。朝方の三時に店に飛び込んで買うことはできないのです。
昨年、そういうことが実際に起りました。朝の三時に店を見つけなければなりませんでした。餌を探さなければなりませんでした。誰かが出かけて行って見つけなければなりませんでした。主人が店に寝泊まりしている釣具店を見つけ、そのドアを叩かなければなりませんでした。その主人がプロの漁師だったので、なぜわれわれがそうしなければならないかを理解してくれました。しかし、もしそういった店がなくて、餌を手に入れることができなかったらどうしますか。先生はその時は既にたくさんのストライプバスを捕っていました。多くの人はそういう時には諦めてしまって「今日は良い日だった。他の誰よりもたくさん捕ったのだからもう帰ろう」と言うでしょう。しかし先生はそうしませんでした。午前四時頃餌を手に入れて、魚釣りを続け、さらに多くのストライプバスを釣りました。
記録を樹立することは非常に重要なことです。自分にとっても重要であり、その地域にいる人々にとっても意味のあることなのです。ある地域で、ストライプバスの記録を打ち立てれば、人々が認めてくれます。彼らは皆さんを尊敬するでしょう。人々が皆さんを尊敬したらどうなりますか。人々は皆さんの所へ来て、どこでたくさんのストライプバスが捕れるかを話し合うようになるでしょう。そして彼らは皆さんがどこで魚釣りをしているか知りたくなるでしょう。しかし皆さんはあまり多くを言う必要はありません。彼らは皆さんを一番良い所に連れて行ってくれるでしょう。そうしたら、皆さんは皆さんが一番良いと思っている場所の一つに、彼らを連れて行ったら良いのです。もし皆さんがある種類の魚で記録を樹立することができれば、そのような他の漁師達と経験を分かち合うことによって、たった一年間で十年分の魚釣りの経験を得ることができます。しかし、もし何らかの記録を持っていなければ、人々はあまり多くのことを皆さんに教えてくれないでしょう。変わった話があります。昨年のアラスカでの魚釣りでのことです。ある人が大変良く釣れる場所に我々を連れて行ってくれました。先生はその人に「ここでは誰が一番上手にハリバットを捕まえる漁師ですか」と尋ねました。すると、彼とそこにいたもうひとりの人がある人を指差して、「この男はレッドと言う名前です。彼は昨年、四百ポンドのハリバットを釣りました。彼はこの辺りで一番良い漁師です」と言いました。
そこで先生はこう答えました。「それは嘘だ」。先生が真剣にそう言って、そのレッドという男を動揺させると、彼は怒って自分が最も良い釣り場を知っていることを示そうとし、最初の日に一番良い釣り場に先生を連れて行きました。先生はその最初の日に百ポンドのハリバットを釣り、この男が良い釣り場を知っていることを証明しました。その後、彼を賞賛し、彼を喜ばせました。
同時に、彼にハリバットのより良い釣り方を教えました。そしてこのことが他の漁師達にも感銘を与えました。先生の方法で他の人の二倍の魚を捕まえました。それは時間が問題なのです。先生は他の人よりも速く動き、時間を短縮したのです。また先生は他の人のようにリールを使わないで、マグロのラインのようにしました。そして、ラインを戻す時にはリールよりもはるかに速く戻しました。このように完全に数学的に、よりたくさんのハリバットを捕りました。
その日の終わりには、他の人々は先生の方法について尋ねました。先生はそれを説明しようとしましたが、彼らはすぐには信じませんでした。先生が彼らと論争すると、彼らは感動しました。既に彼らはそのような釣り方を試していたのですが、しかし釣り糸がいつもからまったのです。先生はそのことについても研究してみましたが、その糸がからまらないような方法を見つけていました。彼らにはその技術を教えてあげたので、彼らは先生が彼らよりも良い結果を得ることができたことに納得したのです。
これが物事を研究しなければならない理由です。皆さんは何かを仮定して、それを試みなければなりません。こういう具合にしてやって行くのです。何かを仮定して、それを証明するようにしなさい。これが皆さんを一味違った男や女にするのです。魚釣りの場合も、それぞれの魚がそれぞれの違った習性を持っています。こういった習性を知るようにならなければなりません。調査したり、研究したりしなければなりません。研究し、実行し努力しなさい。ただ座っていてはいけません。多くの時間を投入し、多くの努力をするのです。何事においてもこのようでなければなりません。
伝道もまたこのようなものです。まず皆さんは、多くの時間を投入しなければなりません。最初はそれほど結果を得られないでしょう。それで何を言うべきか、どういう人に語るべきかを研究しなければならないのです。この原理原則を適用し、目標を達成するために努力を集中しなさい。こういうことが、皆さんの一生を通じて適用できる基本的な原理原則だと思いませんか。皆さんが今年の夏学ぶべきことは、ただ単に魚釣りだけではありません。この原則を一度骨身にしみて学ぶならば、決して忘れないでしょう。ここで皆さんが学ぶことは、いつでも、どこに行っても皆さんと共にあるでしょう。経験を通して学んだ事は、決して忘れることはありません。何事に付けても勉強したり、調査したり、真剣に努力したくない人はどうでしょうか。そういう人にはあまり期待を持つことはできません。初めは小さな違いでも、後になってみれば、大きな違いをもたらすものであるということを忘れてはいけません。今、皆さんが若い時にこういった習慣を身に付ければ、後の人生において何者かとなることができるでしょう。しかし皆さんが、こういう具合に投入して、研究して、学んだことを応用する生き方をしなければ、三十年経ったとしても何者にもならないでしょう。
先生はこれまでずっと集中した生き方をして来ました。先生は何事にも関心を持ちました。先生にとって、魚釣りも単なる一つの領域に過ぎません。先生は単なる漁師ではありませんね。それでも、この辺りでは最も優れた漁師の一人となりました。それは先生が、同じ原理を人生のあらゆる面に応用しているからです。