御旨と海 第21話

アメリカの水産業の窮状

 それから我々は水産業に目を向けました。皆さんも知っているように、漁業はかつてアメリカの主要産業の一つでした。しかし、過去二十年から三十年の間に、それは少しずつ衰退の途をたどっています。そして現在、自らの力では再びはい上がれないような段階まで落ち込んでいます。一方、アメリカの漁場は、少なくなりつつあるのでしょうか。そういうことはありません。事実、アメリカには世界の四大漁場のうち三つまでがあります。

 ある種の魚が減少しかかっているという問題はあります。しかし、利用できる種類はまだまだたくさんあり、それに味も良いのです。ただ問題なのは、市場であまり人気がないということです。しかしこの状態は変えることができます。政府はこういうことは知っているけれども、目下お手上げの状態に近いのです。特に漁師達が海に出て行きたくないと思っている場合にはそうです。ではどうしたら良いのでしょうか。我々はこの問題を簡単に分析することができます。どうして、漁師達はやる気がないのでしょうか。彼らは数日間海に出て、一生懸命働きます。しかし帰って来ても、それをほとんどお金に変えることができません。売る所がありません。市場で売れない魚の種類がたくさんあります。卸売業者は長い間それを利用してきました。もし売れなければ、釣った魚を海に捨てるしかないことを知っている卸売業者達は、非常に安い値段を漁師達に押しつけてきました。

 水産業には安定した収入は保証されていません。漁師達は、ある時には十分な魚を捕ることができるけれども、そうでない場合も多いのです。だから漁師の数は限られています。誰もが漁師になれるわけではありません。それに海上での生活はとても厳しいのです。漁師達は一度漁師をやめると、決して再びその仕事には戻ってきません。他の仕事には就くけども、もう一度漁師になろうとはしません。あまりにも厳しすぎるからです。すでに五十パーセントに近い人々が漁師をやめました。彼らは再び戻ってくることはないでしょう。

 水産業にはまた別の問題があります。それは妻達です。漁師達は一週間、二週間あるいは一カ月の間、ずっと漁に出ています。そしてこういうことが一年中続きます。多くの女性達が、一年の大半を一人で過ごさなければなりません。そういう生活に耐えきれなくなり去っていきます。このために漁師達はやる気をなくしてしまいます。漁に出て行く生活は厳しいけれども、家庭さえしっかりしていれば耐えることができます。

 漁師達は一生懸命働いて魚を釣るけれども、、それが良い値段になるという保証はありません。漁の保管があまりよくないことや、市場にたくさんの魚が既にあふれているために、彼らの懐に入るものが何もないことさえあります。あるいはある種の魚は捕れても、それは市場では人気がなかったりします。あまりたくさんの魚の種類が知られていないアメリカにおいては特にそうです。それに市場の予想は全く不可能です。ある種の魚は捕れても、それが売れなかったりします。それと共に、海で働いている間、家族が待っていてくれるという確信が彼らにはありません。多くの男達にとって、それはあまりにも苛酷すぎるのです。

 我々にとって、それを解決する方法は簡単です。これら三つの問題を乗り越えることができれば、皆さんはこの大変素晴らしいビジネスに加わることができます。誰でもそこまでは分かっているのですが、この三つの問題を乗り越えることができません。そこで考えてみなさい。我々が自分で船を造り、それから魚を釣る、そしてその魚をやはり自分達で加工して売ります。最後に残ったものを外国に輸出します。そうすればどんな魚を捕ろうとも直接売ることができます。もしこの点が解決されれば、我々のビジネスも成長することができます。魚を捕り尽くしてしまうのではないかと皆さんは心配するかも知れませんが、学者はこの点について研究しており、相当の数の魚が捕られても、種が絶滅することはないということを知っています。言い換えれば、皆さんがある量を捕ったとしても、魚の方は毎年毎年繁殖を続けることができるということです。まだたくさんの魚がいます。我々は漁、加工、販売そして輸出の面において一番になるんだという決意をしなければなりません。これが我々の功績になるでしょう。

 皆さんもいつの日かこの分野でビジネスを始めることになるかも知れないけれども、まず最初にしなければならない事は海になじむことです。ビジネスはその次です。良いビジネスをするために要求される性相がまず第一です。皆さんは長い間、海に出ていません。一度も出たことがない人もいると思います。だから、たとえそのアイデアに同感し燃えているとしても、皆さんは海につにて知らなければなりません。それが実際どういうものであるかを知らねければなりません。それが海上七十日間の、この夏期訓練の目的です。先生は自らこの企画をか開拓し完成させてきましたが、皆さんが受け継ぐことができる基盤を造るのに七年もかかったことになります。今年は既にやり方の基準というものが確立しているので、皆さんはただそれを覚えて実践するだけで良いのです。それは情熱をかきたてると同時に、やりがいのある仕事です。先生はマグロ釣りに最も適した船をテザインすることによって、最初からこの企画を支援してきました。皆さんも知っているように、我々は最初「メイコ(Mako)」と呼ばれる、マグロ釣りに最も適した船だと市場で評価されている船を買いました。しかし先生はその船には多くの欠点があることにすぐ気づいて、根本的にテザインを直し、現在、人々が使っているよりもはるかに優れた船を開発しました。

マグロの役割

 過去数年間のうおの値段は、信じられないほど低いものでした。時には漁師達は魚を海に捨てました。水産業を安定させるためには魚の値が上がる必要がありました。一ポンド十セントに過ぎなかった値段が上がっていったわけですが、その原因の一つを作ったのが我々だったのです。先生が五年前にここにやって来た頃、人々はそんなことを気にもかけず、ただ海に投げ捨てていました。考えられないことですね。毎年着実に値が上昇し、今年は二㌦五十セントまで上がりました。そして来年は一ポンド少なくとも三ドル五十セントにまでなるでしょう。我々は自分達の財源を使っているのであり、その額はもっともっと増えると思われます。これは困ったことなんですね。しかし、将来のためにそうしなければなりません。今、皆さんのやるべきことはマグロを捕ることです。それは皆さんにとって良い訓練です。しかしもっと重要なことは、それが漁師達のためになるというのです。

 マグロの価値は寿司になります。皆さんは新鮮なものを配達しなければなりません。新鮮なものは配達する限り、それを拒む日本レストランは一軒もありません。彼らは最高の質の新鮮なマグロに対して、最高の値段を払うでしょう。日本人はマグロの価値が分かります。だから漁師達は新鮮なマグロに対して、それ相応の支払いを受けるべきです。先生が漁に出るまでは、漁師達はマグロから何の利益も得ていませんでしたが、それが今変わりつつあります。ここでマグロを扱っている会社は全部、その背後に日本の会社を持っています。つまり、本当の買い手は日本にいるということなのです。お金は彼らのポケツトから出ているのです。

 もし我々が値段をつり上げれば、日本人達は日本へ戻らなければなりません。そして彼らは皆に「レバレンド・ムーンのせいで、値段があまりにも高くなったので、マグロを買うのを諦めなければならなかったんだ」と言うことになります。それから「レバレンド・ムーンはグロースターの全水産業を乗っ取ろうとしています」というニュースが、一夜のうちに日本全国に広がることになるでしょう。そういう心理的な影響を与えることになります。いずれにせよ、グロースターで何が行われているのかは日本人達には何も分かりません。

 一ポンドにつき三ドル五十セントが、あるいはそれ以上の値段で魚を扱える限り、我々はそれを買ってそれを売ることになるでしょう。それから我々は基盤を造り始めることができます。分かりますか。マグロの値段が上がって安定すれば、他の魚の値段も上昇します。何年か前にはタラ・ニシンあるいはそういう種類の魚の一ポンドあたりの値段は、五十セントから六十セントに過ぎませんでした。その頃のマグロの値段もただ同然だったのです。しかし現在、マグロの値段が上昇しているので、これらの魚の値段も同様に上がるべきです。目下、我々は新鮮な冷凍ニシンに、一ポンドについて十セントしか払っていません。

 マグロに起きたことと同じことが、これらの魚についても起きるはずです。これらの魚の値段を一ポンドにつき一ドル五十セントに引き上げた後、市場で売るようにしたらどうでしょうか。マグロを基準設定の道具として用いるのです。マグロの値段を安定化させることによって、普通の魚の値段が上昇することになります。そうすれば、どういう魚を捕ろうともそれは間違いなく消費されます。つまり、売るという確信を我々は持つことができます。このようにして、我々は基盤を下から上まで造り上げるのです。

 「レバレンド・ムーンは魚の値段を上昇させ、市場を安定させ、我々の将来のために販売網を拡大していくれた。本当に我々のために貢献してくれたんだ」と、いつの日か漁師達が皆一斉にそう言うべきです。彼らは自分達の将来が明るきものになりつつあるということを知るべきです。

Atsuki Imamura